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2010年11月22日 (月)

chili「夜を巡る」を巡る

chiliさんが新作音源「夜を巡る」をたずさえてTOKYOにやってきた!ヤーヤーヤー
最近、“転勤系アーティスト”などうまいキャッチをひねり出したchili嬢。
この冬は、九州をぐるりと回って、宮崎から大阪へ北上した模様。

※まったく人のことは言えないが日記以外更新が滞るHP内chiliブログ参照↓
chili!chili!chili!

新作音源「夜を巡る」は、すばらしかった。
声はずっと澄んで、遠くまで伸びていきそうだった。
引き続き、進化してゆく歌う身体。
感情がともり発光している、でもスムース。
なめらかな、声の感触。

「東京タワー」(ピアノver. /ギターver.)「夜という球体」3曲を朗読(と音楽)で挟み込んだ濃厚な夜のサンドイッチ。とてもとても夜。眠りに落ちる前にひとり、あかりをつけて聞きたい。わたくし、今回ジャケットイラストも描かず、朗読部分(散文)で参加しました。chili嬢が品の良い豆を挽いて淹れたコーヒーみたいな夜に、わたしがイメージした夜をミルクみたいにたらしてみたら...なコラボレーション。


chiliさんの読むわたしの言葉は、もう文字ではなく、音になっている。
鮮やかな驚き。ハッとした。
音になったわたしの言葉は、想像以上に素敵で(言葉がおめかししたみたい!)一度離れて遠くから見ても良いな、良いものがかけたなと思ったので散文をのっけてみる試み。

※アルバムの歌詞カードには「耳で聴いてほしい」というchili嬢の意向で、
散文自体はのっかってなせん。


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夜は巡る

 夜は、いつものように街にやってくると、公園の噴水の縁、スーパーマーケットの駐車場、オフィスの奥の応接室からエレベーターのボタンの隙間まで、満遍なく満ちて行った。たちまち、街は菫色に包まれ、地平線で日の名残が少し燃えた後、色濃い紺色の層を何枚も纏った。夜は、満ちはぐりがないか確かめるように、風に乗って街路を東から西へと泳いでいた。その折、ビルの間を歩く娘を見つけたのだった。そして、彼女のシャツの影に、自分を溶かしこんだ。

 夜は、娘の歩みとともに街中を抜け、電車に乗り込んだ。
 4両目から広がった夜は、車窓の向こうにたゆたうまだ若い夜の層と繋がってその色を重ねたので、街の灯りも、白や黄色や橙やら思い思いにその明度をまあるく上げた。鉄橋を渡るとき、下の川面にずいぶん夜が溶けてしまったせいで、空は川面よりもいくぶん明るく仕上がり、派手な街では電気の灯りで空が菫色のまま夜を明かすこともしばしばだった。それでも、ガタタン、ゴトトンと夜は深まり、しばらくすると、世界はすっかり夜になった。

夜の只中、電車は走った。
娘の口元が言葉を結ぶ。
ふ た わ む こ う だ い
聞き慣れない、文字の顔も、表情も分からない。
ふ た わ む こ う だ い
見知らぬ駅の名前は、ひらがなで意味を失った。
もてあそんだ音が落下するよりも少し速いスピードで電車は走る。
看板、中吊り、老人の手にある本、いたるところに文字は踊っていた。
「威嚇」の「嚇」は口に赤、赤。啼く鳥の嘴のインサイド。
鳥の口の中が赤かったかどうか、娘は思い出せない。
窓の外で、巨大なショッピングセンターは休むことのないお城として、
こうこうと、どこまでも白く、発光している。
サバービア、サバービア。

「突き当たりを右にいってください、次の交差点を左で。
あの、黄色い点滅の下あたりで停めてください。」
踵のヒールを12段分鳴らした後に、2m。
小さな部屋。
今日を修めるために、娘は、音楽を選ぶ。
水を飲み、身支度をし、眠りの延長線上へゆるやかにシフトしていく。
彼女は、枕元に小さなあかりを点し、
その日の出来事を、線も点もない真白い紙に綴った。
鉛筆の鉛は黒く黒く鈍く、その光を返した。
なめらかに、なめらかに、漆黒は彼女の指の間から、窓の外へと流れていった。
虫の声も、音盤からなのか、庭からなのかわからなくなって、
甘やかなひとりぼっちは生まれ落ちる。
夜は、わたしのために、その身体を果てなく広げているのだ。
そう思い、娘は安心してまぶたを閉じた。

 夜は、住宅街から街を越え、キリンのようなクレーンが群れ為す工業地帯を越えていく。さえざえとした銀色の機械も、もうもうと立ち上がる煙突の煙も、オレンジの灯りも。夜の姿は、いつの間にかたっぷりとした魚になっている。魚となった夜は、その身体が白むまで、世界のすべてを呼吸した。ひとしくまろやかに吸い込んでは吐き、吸い込んでは吐いていった。鰓から漉され出た空気には、少しずつ夜明けの粒子が混ざり始めている。

東の彼方、海の方から風が吹くまで、もう、間もない。

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